シンキング・サイクルで育む問題解決能力

生涯にわたって学び続ける子供を育むためには,どのような授業づくりをしたらよいのでしょうか? ここが我々のスタートです.

子供が社会に出ても,つまり,学校を卒業して先生がいなくなっても,独立して保護者がいなくなっても,情報を上手に取り扱って問題解決できる,そんな生涯にわたって学び続ける子供を育みたいと考えています.

多くの子供たちは,たくさんの知識を単純に記憶していくことには慣れています.さらに,それらの知識を活きて働く知識にして,上手に未知の問題も解決ができる,このための思考力・判断力・表現力等や情報活用能力を育みたいと,そのための授業づくりを研究しています.

我々が取り組んでいることは,新学習指導要領の趣旨と同じですが,新学習指導要領に示されていることを,より具体的な授業のカタチにすることを試みています.

新学習指導要領に示されている問題解決能力に関することは,ある意味で,理想の姿であり,最終的なゴールでもあると思います.そこで,今ある教室の現実の姿から,積み上げていき,最終的なゴールに持って行くためには,何から手をつければよいのか,今,ゴールから見れば,どのあたりにいるのか,そういったことが分かったり,経験の浅い先生でもどのように授業づくりしていけばよいのかが分かったりするなど,そのための授業づくりの方法,教材・教具を開発しています.

子供に,ただただ「考えましょう」といっても力はつきません.問題解決能力を育むためには,そういった手探りの単発の指導ではなく,学習過程の繰り返しで指導していくことが必要です.学習過程の繰り返しによって,問題解決の基本的な過程が身についていけば,何から手をつけてよいか分からないような大きな問題に直面しても,最初に取り組むべきことが分かります.

こういった問題解決に資する基本的な学習過程は何なのか? このことについて我々は何度も議論を繰り返したり,国内外の関連資料を探したりしました.その結果,やはり新学習指導要領の「総合的な学習の時間」に示されている「探究的な学習の過程」を援用することとしました.

新学習指導要領には,各教科における学習過程も示されています.本来であれば,各教科に沿った学習過程を用いるべきでしょう.ただ,子供が社会に出れば教科はありません.教科よりも広大な領域において,問題解決をしていく必要があります.そこで,最も汎用性が高い基本の学習過程を型としてしっかりと身につけ,状況によって応用したりして,型を破っていくべきと考えました.

一方で,「探究的な学習の過程」というと,どうしても総合的な学習の時間のことに見えてしまいます.しかし,我々が,社会や算数など,様々な教科の問題解決場面において,「探究的な学習の過程」を適用して問題を解決することを子供に指示したところ,驚くほど質の高い問題解決ができました.何時間も必要な大きな問題解決だけではなく,数分で終わる小さな問題にも適用可能であり,論理的に問題解決できることが分かりました.

「探究的な学習の過程」は,総合のものだけではないと強く思ったのです.きっと学習指導要領に「探究的な学習の過程」を示した方々もそのつもりで書いたのかも知れません.ただ,こんなに便利な「探究的な学習の過程」も,総合だと決めつけられてしまったり,何時間も必要とする問題解決だけに適用可能だとイメージされたりしてしまうと,多くの教室に普及する学習過程にならないかも知れないと思いました.

そこで,我々は「探究的な学習の過程」について「シンキング・サイクル」と名付け,大きな問題でも,小さな問題でも,それらを解決する際に積極的に用いていこうと考えたのです.

本「シンキング・サイクル」研究会では,未知の状況にも対応できる問題解決能力を育むための授業づくり,教材・教具などを開発していくことを目的としています.

研究代表者 東京学芸大学・准教授 高橋 純

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